期待効果
電子請求や経費精算のツールをグループで統一し、間接業務の効率化が進展。また、ビル単位での事業収支が可視化され、実績データに基づいた賃料設定なども可能になった
ステークホルダーからの膨大なデータを横断的に活用することで社会の潜在ニーズを発見し、新たなサービス開発に結びつける体制が整う
総合不動産大手の三菱地所は、DX(デジタル・トランスフォーメーション)によって暮らしやすさや働きやすさを実感できるまちづくりと、新サービスの開発に取り組んでいます。この目的のためにインフォマティカ製品を採用し、社内業務の生産性向上と、オン・オフラインの区別なく、まちの関係者に利便性の高い価値を提供できるデータ連携・分析基盤を整備しました。
[課題背景]
「顧客との物理的な接点」が、事業の優位性に結びつくとは限らない時代に・・・
三菱地所は、東京・丸の内エリアをはじめ横浜市や仙台市などで、長期的視野に立った不動産開発事業とエリアマネジメントを幅広く手掛けています。同社の賃貸オフィスが集中する丸の内・大手町エリアの就業人口は、約28万人(※1)。同社グループが管理するマンションの総戸数は、約35万戸(※2)にも上ります。さらに、運営する全商業施設の来客数は年間およそ2億人(※3)です。顧客との物理的な接点を豊富に保持していることが、同社ビジネスの優位性を際立たせてきたとも言えます。一方、近年はモバイル端末を起点とした行動様式の浸透やコロナ禍の長期化によって、人々の暮らしが急激に変容しています。
「この環境変化を踏まえて、人と企業がオンライン・オフラインを行き来しながら交流できる体験の提供を通じて、社会や個人の課題に寄り添う『三菱地所デジタルビジョン』を2021年に発表しました。具体的にはDXの推進によって、事業横断的なデータや好意的に提供される個人データを分析し、暮らしやすさ・働きやすさをより実感できるエコシステムの構築と、新しいサービスの創出に注力しています」。同社DX推進部加瀨慶明氏は、このように説明します。
[戦略・施策]
既存の情報システム群を連携し、データの分析・活用を容易にする共通基盤の整備に着手
新しいサービス・コンテンツの創出と、グループ内のDXを推進していくために、同社は2021年6月より既存の情報システム群を連携して、データの分析・活用をしやすくするデータ連携・分析基盤の整備に着手しました。「データ形式やプロトコルが異なる100種類以上のシステムをAPIなどで繋ぎ、商業ビルの基幹システムに関するデータや、居住者・来街者・就業者向けWebシステムのデータをDWHへ中継するための統合ハブ、およびデータ連携基盤の導入を計画しました。まずはアナログで処理していた業務データの可視化・見える化など、社員の働きやすさを高める環境整備と、ビジネスのスピードアップを目指しました」と、DX推進部芦垣潤平氏は話します。また、加瀨氏は「生産性向上によって得られた社員の余剰時間を、新事業・サービスの創出に充てることで、安全で快適なまちづくりと、今後の成長を実現するための重要施策でもあります」と補足します。
[製品選定のポイント]
利便性と拡張性。スモールスタートにマッチしたライセンス体系にも評価
データ連携・分析基盤の構築にあたって、三菱地所は複数のETL製品を比較検討しました。その結果、同社はインフォマティカが提供する包括的なデータマネジメント製品「IDMC(IntelligentDataManagementCloud)」のラインナップのひとつである「CDI(Cloud Data Integration):以下CDI」を選定しています。
採用に至った決め手は、インフォマティカ製品が備えている利便性と拡張性でした。「まず、SaaSやパブリッククラウドとの親和性が高いマルチクラウド型の基盤であること。第二に、ETL処理の部分にあらかじめ装備されているコネクタが豊富で、新規開発のコストがかからないこと。つまり、導入すればすぐに使える点を評価しました。第三の選定理由はIDMCのプラットフォームに、データ連携・統合だけでなく、ハブを介しての疎結合やAPI開発など、充実した機能が揃っていること。クラウドを介して新たな機能がどんどん追加される点も、安心できます」(芦垣氏)。
芦垣氏は、2021年よりインフォマティカが提供している従量課金型のライセンス体系についても言及します。「今回のデータ基盤構築を計画した際、ビジネスとしてスケールするかどうかは未知数な面もありました。もし定額料金のETL製品であれば、本プロジェクトのリスク要因になっていたはずです。小さな規模でスタートし、計画の進捗に応じて拡張できるこのライセンス体系は無駄が生じず、とても良いと思いますね」(芦垣氏)。
[導入効果]
社内業務の生産性が向上。今後は潜在ニーズの発見や、新たなサービス開発に寄与
新しいデータ連携・分析基盤によって、同社では当初の目論見どおり、まず社内業務の生産性向上効果が得られています。本プロジェクトの体制づくりと設計実務などを担ったメック情報開発株式会社ITソリューション部冨森啓史氏は、次のように言及します。
「例えばビルマネジメントの業務で、担当者がビル単位の収支やROAを確認する際、既存のテンプレートで作成した請求書や支払い明細のデータを基幹システムから集めてExcelで加工し、紙に出力していた煩雑な工程は廃止し、代わりに今回整備したデータ基盤に繋ぐことで、直接BIツールに展開して自動化できる仕組みを用意しました。その結果、アナログな工程を省略できるだけでなく、事業収支を素早く正確に見える化できる目途が立ちました。今後はオフィスや商業店舗の賃料設定の際に、直近の契約履歴や周辺ビルの成約状況などを確認するといった活用シーンも想定しています。また、個別業務の課題に対して、従来とは異なる角度からアプローチする際にも、ソースとなるデータをETL上で組み替えることで、模擬的な現象なども瞬時に可視化できるようになりました」(冨森氏)。
一方で社外に対しては、今回の基盤構築を機に、居住者や来街者、就業者向けの事業を通じて得た膨大なデータを横断的に活用することで社会の潜在ニーズを発見し、新たなサービス開発に結びつける体制が整ったと言えます。
「蓄積してきた顧客情報についてはCDIを活用し、データレイクを介してDWHと連携できるしくみを構築する計画を立てています。これが実現すると、2020年から部分的に運用を開始しているエンドユーザー向けの共通認証ID『MachiPass』の基盤と、グループの各種事業との連携が容易になります。なお、今後はIDMCの機能のひとつであるCloudDataQualityの活用によってデータ品質の改善・維持を進める考えです。商業テナントなどの顧客情報を、データの名称やコードを統一してひとつのマスターで管理し、統合的に分析したいからです」。芦垣氏はこのように将来を展望します。
加瀨氏は「より豊かなユーザー体験を提供するためにも、私たちDX推進部が各アセットの事業部門のニーズを先回りし、データ活用の基盤を、さらに充実したものにしていきます」と強調します。そしてインフォマティカでは、クラウドネイティブなデータマネジメント基盤を介して、今後も不動産業界のデータドリブンなビジネス変革を支援するソリューションを提供していきます。