マスターデータ管理が業績に与える影響と社内合意に向けたプロセスとは
企業と顧客とのコミュニケーション手段が多様化する現代において、企業は顧客についてのさまざまなデータが毎日のように蓄積されています。こうしたデータは企業の意思決定や顧客管理に役立つ力を秘めていますが、実際にはサイロ化されたシステムやプロセスの中にデータが分散し、十分な活用ができていない企業も少なくありません。
こうした問題を解決してくれるのが、マスターデータによるデータマネジメントです。
マスターデータと業績の関係
マスターデータとは、複数のシステムに散らばるデータを紐づける信頼性の高いデータです。マスターデータがあれば個々のデータを管理しやすくなり、異なるシステム内にあるデータ資産も横断的に利用できるようになります。
もちろんマスターデータは「ただあれば良い」というものではありません。データの信頼性・関連性・正確性を高めるためには、マスターデータ間の整合性を保ち、重複データを排除するマスターデータ管理が必要です。
マスターデータが適切に管理されている企業では、たとえば次のようなことが可能になります。
・効果的に顧客をセグメント化し、ROIの高いキャンペーンにマーケティング予算を集中できる
・詳細な顧客情報を把握することで、隠れていたクロスセルやアップセルの機会を発見できる
・顧客のニーズや課題を予測し、プロアクティブな問題解決を可能にする
・自社データをEU一般データ保護規則などに適合させ、罰金を回避し自社ブランドを保護する
・成長戦略の意思決定に必要なデータインサイトを得る
・受注から入金、調達から支払、顧客やサプライヤーのサポートなどの業務プロセスを改善する
・M&Aに伴う重複データや関連データを整理し、クロスセルやアップセルの機会を拡大する
ここに挙げたものは、いずれも企業の業績に直結するものばかりです。
マスターデータ管理による業績向上の具体事例
実際にマスターデータ管理を行うことで業績が向上した企業の例をご紹介します。
ケース1:UPMC
世界的な医療機関であるUMPCは、マスターデータ管理によって組織内のさまざまなシステムに散らばる医療データ・財務データ・管理データ・ゲノムデータなどの品質向上に努めています。結果として患者に最適なケアを提供できるようになっただけでなく、治療に影響を与えるさまざまな要因を分析することも可能になりました。
ケース2:Nissan Europe
日産自動車のヨーロッパ法人Nissan Europeは、マスターデータ管理によって顧客データ・ディーラーデータ・車両データを統合することで全社規模の顧客ビューを構築しました。これによって顧客ごとに最適なマーケティングができるようになり、顧客のコンバージョン率とブランド認知度の向上、売上の向上につながりました。
ケース3:Transamerica
保険や年金、投資信託などを扱うTransamericaは、マスターデータ管理により、顧客プロファイルデータ・見込み客とパートナーのデータ・勧誘履歴・ブログなどからなる包括的な単一ビューを構築しています。これによって新たな顧客インサイトを獲得し、顧客ごとにパーソナライズしたマーケティングを正確に実施できるようになりました。
ケース4:DELL EMC
ストレージやソフトウェア開発を行うDELL EMCでは、70回もの合併や買収を経てデータのサイロ化が深刻になっていました。マスターデータ管理によってデータの修正や重複の解消を行った結果、組織全体で共有するデータの品質が向上し、業界内での競争優位性が向上しました。
マスターデータ管理を実現する6つのポイント
マスターデータ管理は1人では実現できません。経営幹部からの賛同や継続的な支援はもちろん、業務部門全体による徹底的な取り組みも欠かせない要素です。社内のさまざまな利害関係者を説得し、協力を仰ぐには以下の6項目を実践する必要があります。
①ビジネス目標を特定する
まず最初に、マスターデータ管理によって実現したい価値、つまりビジネス目標を明らかにすることが必要です。たとえば「顧客内シェアを高める」「質の高い意思決定をより迅速に下す」といったものが挙げられます。
②マスターデータと連動する業務上の価値を確定する
続いて、自社の業務のうちマスターデータ管理によって改善が期待される具体的な内容を確定します。具体的には「新しい顧客インサイトを獲得してコンバージョン率を向上させる」「M&Aによる重複データを処理してクロスセル/アップセルの機会を拡大する」といったものです。
③マスターデータ管理へのロードマップを描く
システムに蓄積されているデータの現在と将来の状況を正確に把握し、今後の進むべき方向と達成すべき内容・時期を明確にするロードマップを作成します。
④利害関係者にインタビューする
ロードマップ作成に欠かせないのが情報収集です。データの取り扱いに関わる関係者、たとえばアプリケーションオーナーやプロセスオーナー、業務アナリスト、運用管理者、データの修正や利用に関する責任者との対話は欠かせません。またデータの内容に合わせて、営業、財務、人事などあらゆる部門の利害関係者と話し合う必要があります。
⑤調査結果を分析する
その後、インタビューや調査によって得られた結果をもとに潜在的な利点や目標達成までに発生する可能性のあるコスト、期待できる利益などを分析します。
⑥ビジネスケースを作成する
最後に、これまでに得られたデータや分析結果をまとめてビジネスケースを作成し、利害関係者にプレゼンテーションします。
マスターデータ管理を実現するプロセスは決して楽なものではありませんが、それに見合った以上のメリットが得られます。社内に蓄積されたデータ資産を業績向上に役立てるために、経営幹部やすべての利害関係者を巻き込んだプロジェクトを今すぐ開始してください。