マスターデータガバナンスを成功させる8つのベストプラクティス

最終公開日 : May 20, 2022 |
インフォマティカ編集部
インフォマティカ編集部

場で競争力を保つには、ビジネスのパフォーマンスを最大化し、企業の成長に役立つデータを有効活用することが肝要です。さまざまなタイプのデータを効果的・効率的に管理し、運用する方法を知らなければ、企業の長期的な成功は成しえません。しかし、どのようにすればよいのでしょうか。

 

この記事では、マスターガバナンスを成功するために必要な8つのベストプラクティスについてご紹介します。

·           マスターデータガバナンスの概要

·           マスターデータマネジメントの重要な定義とカテゴリ

·           マスターデータガバナンスの要素

·           ビジネスを成功へ導くのに最適なマスターデータガバナンスの8つのベストプラクティス

 

マスターデータガバナンスの定義について

マスターデータガバナンスのベストプラクティスについて述べる前に、マスターデータガバナンスとマスターデータマネジメントとは何かについての理解が必要です。ここで使われる定義とは、決してすべてを網羅していませんが、それでも、共通認識と用語への理解を育むコンテキストとしては十分です。

 

マスターデータガバナンスとは?

マスターデータガバナンスとは、マスターデータと呼ばれるデータのサブセットにデータガバナンスの要素を適用したものです。データガバナンスの要素は、データマネジメントを向上させるために、定義やソース、プロセス、ポリシー、規則、メトリクス、それに人材などについて、詳細に規定することを目的としています。

 

マスターデータとは?

マスターデータは、企業や組織を運営する上で用いられる主要なビジネスエンティティを媒介として蓄積されます。こうしたビジネスエンティティは、それぞれがマスターデータのドメインとも呼ばれます。どの業界も、組織的な事業活動の中で、多数のドメインを使用しているのです。

 

さまざまな業界が使用するマスターデータ・ドメインの例を挙げてみましょう。

·           保険業なら、保険代理店があり、それぞれの地域で、保険(証券)を、顧客に販売し、資産をカバーし、顧客、そうした資産に対する保険請求をファイリングし、そうしたすべてはサービスパートナーによって補償されます。

·           医療業なら、医師看護師がおり、病院クリニックで、サプライヤから購入した機器医薬品を使い、患者へのサービスを提供します。

·           製造業なら、サプライヤ注文して、原材料を購入し、その費用はコストセンターに回され、従業員が操作する機器を使いながら、製造工場で、製品を製造します。

·           公共的な組織なら、機関があり、従業員パートナーを通じて、市民サービスを提供します。

 

(図1:製造業におけるマスターデータ・ドメインの例)

 

マスターデータガバナンスの要素

データガバナンスの目的は、信頼性を築くことです。データが正しく扱われ、管理されており、高い品質基準を満たしているという信頼性です。マスターデータガバナンスの要素は、品質と信頼性にすぐれたデータ、マネジメントそしてプロセスを提供する上で、最適なコンディションを作り出すのに役立ちます。組織内で信頼性を築くのに役立つマスターデータガバナンスの8つの要素について、見てみましょう。

 

1.     マスターデータ定義

マスターデータ定義は、組織が扱うマスターデータの各ドメインに関して、同じ定義を共有できるように、ビジネスエンティティやそのアトリビュートについて規定します。たとえば、顧客のマスターデータなら、会社名やメールアドレス、電話番号、発送先住所、請求先住所など、製品のマスターデータなら、製品カテゴリやSKU、サイズ、色、原材料など、機器のマスターデータなら、型番、モデル、シリアルナンバー、製造者、製造場所などのアトリビュートを含んでいるでしょう。

 

2.     マスターデータ・ポリシー

マスターデータ・ポリシーは、マスターデータのマネジメントと使用に際して、従うべき社内外の規制について規定します。ポリシーは、マスターデータのマネジメントと使用の多くの局面に関係するでしょう。一例として、「マスターデータは、そのドメイン定義におけるアトリビュートの全セットを含まなければならない」というデータ品質ポリシーが策定されたと考えてみましょう。同時にデータプライバシーポリシーが「個人情報の使用前に、その取り扱いに同意を得なければならない」と述べ、さらにリスクマネジメントポリシーは「ポリシーの策定者と、新しいコストセンターの承認担当者との間で、職務分掌が行われなくてはならない」と述べているかもしれません。

 

3.     マスターデータ・ルール

マスターデータ・ルールは、ポリシーをどのように実行し、施行するかを定義します。「個人情報の使用前に、その取り扱いに同意を得なければならない」というポリシーを例にとって、ルールがどのように機能するかを見てみましょう。顧客の記録が作成され承認される前に、請求やマーケティング、サードパーティーとの共有といった同意アトリビュートを集めなければならないというルールがあったとします。また別のルールでは、マーケティングの自動システムが顧客にPRメッセージを送る前に、マーケティングの同意アトリビュートが「Yes」にセットされていなければならないと決められています。1つのポリシーの要件に対処するために、複数のルールが存在するのは、決して珍しいことではありません。

 

4.     マスターデータ・カタログ

マスターデータ・カタログは、オンプレミスとマルチクラウドのエコシステムに広がるアプリケーションや分析データストレージの中で、マスターデータがどこにあるかをドキュメント化します。さらに、マスターデータのドメインとそのアトリビュート、視覚化されたリレーションシップの階層構造も、ドキュメント化されています。保持しているマスターデータが何なのかを理解することは、さまざまなソース間の一貫性や、各ソース内での正確性、完全性を確保する上で欠かせません。たとえば、合併と買収が会社の成長戦略の一部である場合、買収した企業のシステム内にあるマスターデータと、自社のマスターデータ定義を迅速に比較できるとすれば、統合のコストを減らし、ビジネス価値を加速し、財政報告のリスクを減らせるかもしれないのです。

 

5.     マスターデータ・リネージ

マスターデータ・リネージは、マスターデータがソース間でどう移動し、分析・業務プロセスの中でどう使われたかを示します。リネージは、たとえばROPA(取り扱い活動の記録)に対応したプライバシーコンプライアンスといった多くの事業活動にとって有益です。どのデータが、どのように、誰によって使用されているかを理解するのに役立ちます。ビジネスプロセス内の人工知能(AI)、たとえばレコメンデーションエンジンやロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)では、ビジネスプロセス内のアルゴリズムの配置や、アルゴリズムが入力として期待するデータの構造を特定することにより、マスターデータリネージのメリットを享受することができます。マスターデータ・リネージは、金融サービス業における顧客のオンボーディングや、薬品業界における製造物の追跡・トレース、商品の持続的調達といった企業活動に重要です。

 

6.     マスターデータ・ステークホルダー

マスターデータ・ステークホルダーとは、マスターデータマネジメントの成功の鍵となるビジネスの機能分野にまたがる人々のことです。アーキテクチャやデータベース、アプリケーション、ビジネスプロセスなどのマネジメントを担当し、基準となるマスターデータの定義、ポリシー、ルールを策定し、ビジネスの専門知識を持つIT関係者を指します。データスチュワードは、特定のマスターデータ・ドメインでのデータ品質問題を正す責任者で、中にはデータプライバシーとその保護を担当する法律・セキュリティの専門家や、社内の部署間不一致を解決するガバナンス委員に属する部署横断的なリーダーもいます。

 

7.     マスターデータ・ワークフロー

マスターデータ・ワークフローは、マスターデータマネジメントに使われるプロセスを定義します。ワークフローはタスクベースのプロセスに幅広く関係しており、その中には、マスターデータ定義/ポリシー/ルールなどの作成/アップデート/承認や、マスターデータ記録の作成/アップデート/削除などが含まれます。ワークフローがしっかりと定義されていれば、生産性は向上し、マスターデータマネジメントのさまざまな側面を担当する各ステークホルダー同士での共同作業も、促進されます。たとえば、サプライヤのオンボーディングには、財政、原材料調達および法律の各チーム間での共同作業が必要です。コンプライアンス審査を確実に行うためであり、そこには、住所と銀行データの確認、クレジットカードと制裁対象リストのチェック、基準適合証明と保険の精査などを同時並行して行うワークフローが含まれる可能性があります。

 

8.     マスターデータ・メトリクス

マスターデータ・メトリクスは、データ、プロセス、それに人材の評価・管理に役立ちます。一般的なデータメトリクスは、1つのアプリケーション内の重複データの数や、マスターデータ記録の正確性と完全性などを含みます。SLA(サービス品質保証)メトリクスも必要です。エンドツーエンドのプロセスの中で、マスターデータ定義の変更を承認したり、そうしたマスターデータソース内の変更を反映したりするのにかかる時間を知るためです。たとえば、さまざまなドメインやアプリケーションを担当するデータスチュワードが、変更リクエストを処理するのにどれくらい時間がかかっているかなど、メトリクスは、エンドツーエンドのプロセス内にある特定の業務担当者の生産性や効率性をモニタリングするのに役立ちます。

 

(図2:マスターデータガバナンスの8つの要素)

 

マスターデータガバナンスの8つのベストプラクティス

以上、マスターデータガバナンスの8つの要素について学んだところで、それぞれのベストプラクティスを見てみましょう。

 

1.     ガバナンス範囲を絞る

あなたのビジネスプロセスにとって必要不可欠なマスターデータ・エンティティに焦点をあてます。たとえば、注文から現金化までとか、記録から報告まで、調達から支払まで、それに雇用から退職まで、といった具合です。さまざまなシステムや分野で、マスターデータ・エンティティを表すのにそれぞれ異なるアトリビュートセットがあります。ですから、ビジネスプロセスを効果的・効率的に実行するにあたって、システム全体での一貫性が必須となる最低限のアトリビュートセットを定義するよう心がけましょう。ガバナンス対象となるアトリビュートが多すぎると、複数のステークホルダーからの同意を得るのが難しくなり、実施の遅れを招くでしょう。

 

2.     ビジネスポリシーの専門家に相談する

重大な責任をともなう全国・州・業界内の規制に対処するために、多くのポリシーが設定されています。EU GDPR(EU一般データ保護規制)やCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)といったプライバシー関連の規制、IFRS(国際財務報告基準)やUS GAAP(合衆国で一般に認められた会計原則)といった財務報告関連の規制、銀行業界のBCBS 239や医療業界のサンシャイン法(支払開示)といった業界の規制など、数多くの規制をクリアするために、専門家レベルの助言が必要です。こうした規制の要件を適切に満たすようなポリシーを確実に策定するには、法律、財務、リスク管理および会計検査などで働く人材の、専門的知識が求められるでしょう。

 

3.     オーナーシップとアカウンタビリティを明確に定義する

マスターデータ・ルールは2つの側面からアプローチするべきです。1つめはルールの定義です。たとえば、顧客は何かを注文する前に、発送先・請求先の住所を確定しておかなければなりません。そのルールは、ビジネス関連の専門家によって、当事者意識(オーナーシップ)をもって定義されるべきです。2つめは、たとえば住所確認サービスにAPIコールを行うというようなルールを施行するための、実行可能なコードを作成することです。こうしたコードは、ビジネスアプリケーションやデータマネジメントのツール内に実装されるものですから、ITエキスパートに一任されるべきです。

 

4.     マスターデータの検知とカタログ化を自動化する

組織内ではすでに、1つまたは複数のデータカタログが使われていることでしょう。従って、そこにあるプロジェクトから学習や人材、プロセス、技術を引き出し、活用する機会があるはずです。マスターデータソースの数や記録のボリュームが幾何級数的に増大しているので、マスターデータの検知とカタログ化を自動化できるAIやメタデータを使うツールを見つけましょう。誰がどのデータにアクセスしたかを完全に監査でき、コンプライアンスを守りつつ各自でアクセスできるためには、高度なデータ共有機能もまた必須です。

 

5.     マスターデータ・リネージおよびプロセスフローを自動マッピングする

マスターデータソースが急増しているだけでなく、データ統合は急速に進み、データ移動作業もまた幾何級数的に増大しています。AIやメタデータを使うツールは、データリネージのマッピングプロセスを自動化することによって、効率的なスケーリングを可能にし、把握していなかったデータ移動プロセスの特定にも役立ちます。また、アプリケーションやデータ保管庫の責任者をリネージマップの一要素とするべきです。そうすることで、マスターデータのスチュワードシップ内での共同作業と生産性を、さらに促進できるからです。

 

6.     役割と要件を明確に定義する

まず人材ありきではなく、欲しい結果を前提として、役割や責任を考えましょう。個々の役割を定義する前に、一見適任に見える候補者を選べば、その人物の資質に基づいて役割を定義するということになるのです。そうではなく、ある人物がその役割で成功するにはどんな技術スキル、どんなビジネス知識が必要かを、まずは定義しましょう。その上で、社内にふさわしい人物がいるか、それともその役割を果たせるように誰かを教育できるか、または社外に人材を求めるのかを決定しましょう。

 

7.     ワークフローを効率化・最適化する

マスターデータのステークホルダーが、現状でデータをどうマネジメントしているか、さまざまなグループの活動がどう連携しているかを理解するために、ステークホルダーたちと協力しましょう。共同作業がどの程度必要か、複雑な構造を持つワークフローに関して、どんな仕事を配置すべきかを見積もりましょう。その上で、生産性と効率性を高めるために、ルーティングや優先順位決定、通知をどう自動化すればよいかを模索します。たとえば、特定のマスターデータ・ドメイン担当のデータスチュワードの受信箱に、変更リクエストを送ったり、特定のビジネスアプリケーションに対するSLA(サービス品質保証)に基づいて、変更リクエストを優先させたりといった場合です。その際、承認を迅速化しながらも原状復帰の余地を残すため、ワークフローのあらゆる段階への変更に対して、100%の追跡調査を確実に行いましょう。

 

8.     ビジネス価値を数値化する

テクニカルなデータメトリクスは役立ちますが、本当に求められるのはマスターデータマネジメントが生むビジネス価値の提示でしょう。それには、データメトリクスをプロセスメトリクスと企業戦略的なKPI(重要業績評価指標)にリンクさせる、メトリクスのヒエラルキーを考える必要があります。たとえば、正確な在庫データがあれば、配送日程もより正確に見積もることができるでしょう。正確な請求書送付データがあれば、請求書送付までの時間を短縮できるし、正確な税データがあれば、請求書にまつわる紛争を減らせます。こうしたことすべてが、DSO(売掛金回転日数)に影響を与えるのです。マスターデータマネジメントの有効性と価値を示すことは、長期的には企業の利益になります。


(図3:マスターデータガバナンス、8つのベストプラクティス)

 

マスターデータガバナンスとマスターデータマネジメントに関する最新の情報をチェック

さて、マスターデータガバナンスの要素とベストプラクティスをしっかり理解したら、当社のオンデマンドのオンラインイベント、「MDMとデータガバナンス・サミット」で知識を深めましょう。顧客や業界アナリスト、それにインフォマティカの製品のエキスパートたちから、最新のベストプラクティスを直接学ぶことができます。

 

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本ブログは2022年4月11日のDAN EVERETTによる8 Effective Best Practices for Master Data Governance Successの翻訳です。

First Published: May 19, 2022