【パートナーブログ:B-EN-G】MDM構築のポイントとは?~運用経験からの考察~その2

最終公開日 : Dec 13, 2022 |
インフォマティカ編集部
インフォマティカ編集部

こんにちは。インフォマティカ・ジャパン編集部です。

東洋ビジネスエンジニアリング株式会社様から、昨年の公開に引き続き、マスターデータ管理の運用経験にもとづく、MDM構築のポイントについて寄稿の第2弾を頂きました。

MDM構築のポイントについて奥深い議論についてご一読ください!

 


 

グローバルに事業展開する企業にとって、世界各地に分散する事業拠点に横串を刺し、業績や生産性などの指標を可視化する統合経営基盤の構築には欠かすことのできないマスターデータの整備・管理。マスターデータ管理システム(Master Data Management System、以下、MDM)は、数あるシステムの中でも中核であるといえます。

筆者は、以前、このブログコーナーで、MDM導入プロジェクトの運用経験者として、“MDM構築のポイント”のうちの一つ「重要なのは、管理すべきデータ項目とその連携方法、連携先への依存性を最小限に抑えること」を、具体的事例(事象)を交えながらご紹介しました。今回は、2つ目のポイントをご紹介します。

 

■MDMの管理対象はどこまでとすべきか

いきなり重たいテーマだ、と感じられた読者もいらっしゃることでしょう。

その通り、「どこまでをMDMの管理対象とし、どのデータを各業務システムで個別に処理すべきなのか――。」この切り分けは、グローバルMDMで最も難しい課題です。

筆者がメンバーとして参画した、大手精密機器製造業様のプロジェクトは、すでにSAP ERP上である程度のデータ統合が進んでいたことを受け、それをベースに精度向上と将来のグローバル化を視野に入れたデータのモデリングにあたりました。グローバルで連携すべきデータと、ローカルな業務アプリケーション側で管理すべきデータを明確に切り分けて定義するものです。

例えば、MDMでマスタの入力すべてを一元化しようと考えることが良くあります。散在する情報を一元化することで二重入力の無駄をなくし業務を効率化できると考えるからです。しかし、ここには大きなハードルがあります。各業務アプリケーションで管理されているマスタにはアプリケーション固有で必要な情報が多くあります。これらは必ずしもグローバルの視点で共有が必要なものではありません。そういったものも含めてすべてMDMで管理しようとするとどうなるか。MDMのマスタ項目は数百の管理項目となり、また各業務アプリケーションにとって不正なデータにならないよう検証をする必要が出てきます。これをMDMが一手に引き受けるのは非常に困難であり、それに加えてMDMが業務のボトルネックになりかねない状況となってきます。

そのため、グローバルで共有化するマスターデータと業務依存性の高いデータを階層化するという解決策を導き出したのです。

これを読んで、「自社も同様な状況だから」という理由で、同じ構成を採用できると、思い込んではいけません。なぜなら、MDMの導入スタイルは1つではありません。MDMで管理しようとする情報は現在どこで生まれ、どこで使っているのか、それをMDMに統合する目的は、といった情報を総合的に判断し、それに合ったスタイルを採用していく必要があります。前述の階層化の考えはその1つにすぎません。

前出の製造業様では、ある程度統合化された環境があることや、グローバルという視点以外にリージョンという視点での共有化が必要であることなどを踏まえて構成を決めています。

 

■“ブレ”が引き起こす諸問題

また、MDMの構築は今ある要件を実現して終わりではありません。その後、管理するデータの範囲を広げる、あるいは新たなマスタを管理していくというようにMDM領域の拡張が求められてきます。その際に重要になることの1つがマスタ管理の方針です。

MDMで管理すべきマスタは何か、どういった情報を共有すべきか、その目的は、というようなことを方針として定義することが重要です。それを持たずに都度判断を行ったのでは“ブレ”が生じます。

MDMという基盤を作ると、マスタであれば何でもMDMで管理したいと考えがちです。そういったものを方針と照らし合わせて判断を行わず、やみくもにMDM管理を始めるとどうなるか。ユーザのメンテナンス負荷やMDM運用の負荷ばかりが高くなり、それに見合った効果も得られず、最終的になぜ管理しているのかも分からないというような結果が想像できます。

このようなことを起こさないためにも、あらかじめ広くオーソライズされた方針(ポリシー)やガイドラインを策定しておく必要があります。

 

■使われないMDMにならないように

しかし、さじ加減は非常に難しく、個々の業務との依存性をあまりにも排除しすぎてしまうと、結局、だれにも使われないMDMになってしまう恐れがあります。たとえば特に高い鮮度が求められる業務では、あえて生データのままで、さまざまなシステムと連携させなければならないケースも出てきます。

こうした業務の細かい事情にも気を配りつつ、グローバル経営の目的に応じてデータ管理のポリシーを設計していくことが、私たちの腕の見せ所でもあり、MDM導入の成功の鍵を握っています。決して教科書的な知識で答えを出せるものではなく、運用まで携わって初めて気づくこともあります。

 

■視野の持ち方次第でMDMの価値は向上する

ここまで、運用に携わった経験をベースに2回にわたりMDM構築のポイントを述べてきました。

MDMとはその名の通りマスターデータ管理です。一般的なシステム構築においてマスタ管理の領域というのは比較的単純な仕組みであり低コストで実現できるイメージを持ちますが、その管理領域を複数業務アプリケーションや、リージョン、またはグローバルといった視点で広げることでその難易度は向上します。ただ、それに比例するように達成することで得られる価値も大きいです。MDMを導入することでどんな課題を解決させたいか、どんな価値を期待するか、そういった目的意識を強く持つことが何よりも大切と考えています。

読者の皆様の参考にしていただけましたら幸いです。

 

筆者:東洋ビジネスエンジニアリング株式会社
ソリューション事業本部クラウド&テクノロジー本部
ITアーキテクト
原田 剛志

First Published: Jun 18, 2018