構造データ/非構造データを「データ統合マネジメント基盤」に集約

データドリブン経営を加速する三菱重工業

期待効果

データ利活用の準備工程を、およそ10分の1にまで短縮できる目途を付けた

ユーザーがEDPを用いて、データをセルフサービスで加工できる環境を整備した

デジタル化が進展する今日の産業界で、グローバルに事業を展開する製造業は、経営判断のスピードが問われています。三菱重工業では、インフォマティカの3製品によってデータ連携と抽出・加工に至る一連の工程を短縮し、さらに日本マイクロソフトのクラウド型データ分析基盤が有する高いパフォーマンスが加わることで、ユーザーが必要とするデータをタイムリーに提供できる基盤を整備しました。

[課題背景]

データ利活用のしくみが業務領域ごとに最適化されており、領域を跨いだ分析が難しかった

三菱重工業は、発電プラントなどの社会インフラから航空・宇宙機器に至るまで、人々の暮らしに不可欠な製品群を提供する重機メーカーです。近年はモビリティの電化・知能化と、水素発電タービンなど脱炭素分野の事業拡大にも力を入れています。いずれもグローバルレベルでの競争が激しい分野であり、技術開発投資やM&Aといった重要な経営判断をタイムリーに行うためには、データの収集と可視化・加工・分析にかかる期間を短縮する必要がありました。

しかし2020年以前の同社は、グループ個社・部門ごとに異なるデータ基盤とツールを運用しており、組織に横串を通したデータ利活用のしくみが存在しませんでした。

「新たな切り口の分析ニーズが発生した場合、まずデータの所在の調査・集計から着手する必要があり、抽出条件の確認や見せ方の検討などに相当な日数がかかってしまうのです。結果として、分析ニーズへのタイムリーな対応ができていない状態でした。トップに上がってくる頃には、データの鮮度が下がり、もはや活用できるレベルではなかった・・・という状況も、度々あったのです」。こう明かすのは、ICTソリューション本部BPI部の野本剛氏です。

「とりわけ、業務部門を跨いだ分析をする際には、データ基盤ごとに異なる“作法”に習熟しなければならず、難度が高かったと思います。各々の基盤やBIツールの管理コストも、年々増加していました」。野本氏は、当時の状況をこのように振り返ります。

「インフォマティカの3製品を 組み合わせ、EDPで組み立てた ロジックをDEIに還元できる 機能などを駆使すれば、私たちが 試算した「データ利活用の準備工数を 9割削減できる」という予測を、 さらに上回る効果が得られるはずです」

泉 洋平氏

三菱重工業株式会社 ICTソリューション本部 BPI部 ソフトウェア5グループ 主任

[戦略・施策]

データ連携・分析の手段を標準化する 「データ統合マネジメント基盤」の 構築に着手

前述の課題に対処するために、三菱重工業では2020年秋より、データ連携と分析の手段をグローバルで標準化する「データ統合マネジメント基盤」の構築プロジェクトに着手しました。

同社が2021年度より推進している3か年計画では、企業価値向上のために、収益力の回復と成長領域の開発という2本柱を掲げています。ICTソリューション本部はこの2本柱を強く意識しながら、10年先のデータマネジメントのあり方を議論しました。

その結果、「データの量や種類が増えても、経営レベルの判断やビジネスの要件に合致したデータの加工・分析が、スピーディに完結できる共通基盤を作り上げよう」という結論に達したのです。ちょうど同じ頃、主要なデータソースでもある基幹システムの保守サポート期限が迫り、大量データを超高速で処理できる新システムへの更新を進めていたことも、このプロジェクトを後押ししました。

「つまり、単なるERP製品の置き換えではなく、データ統合マネジメント基盤との相乗効果によって、データドリブン経営の実践と、企業価値向上に寄与するしくみへの転換を図ったのです」(野本氏)。

Data Management platform architecture

基幹業務システムに加えて、非構造データ、センサーデータなども網羅したデータ連携・統合基盤。多様なデータソースから、DEIによってデータを自動的に統合・連携し、いったんデータレイクに蓄積する。 続いてEDC、EDPを用いて加工・変換を施したうえで、DWH(データウェアハウス)へと流し込む。そしてデータマートを経由し、個々のユーザーがBIツールなどを用いて分析を行い、業務に役立てる

[製品選定のポイント]

データ処理性能の高さと汎用性、 情報セキュリティを重視して製品選定

プロジェクトの推進にあたって、同社がまず採 用したのは、日本マイクロソフトのクラウド型 データ分析基盤「Azure Synapse Analytics」 です。そして、基幹システムやファイルサーバ からのデータを抽出・変換し、データレイクへ と供給するETLツールに「Informatica Data Engineering Integration(DEI)」を、データカタ ログ機能を担う製品には「Informatica Enterprise Data Catalog(EDC)」を選定。加え て、ユーザーがBIツールやAIなどを駆使する前 処理のツールとして「Informatica Enterprise Data Preparation(EDP)」を選定しています。 ICTソリューション本部 BPI部の泉洋平氏は、 「3製品に共通するデータ処理性能の高さに 着目し、採用を決めました」と話します。 中でもEDCの選定理由については、次のよう に説明します。

「Oracleなどのデータベース とパブリッククラウドから、データを取得でき る汎用性を備えており、またAI技術を搭載しているので、ユーザーの活用履歴に即したさ まざまな気づきを与える機能もあります。社 内の幅広いユーザーに使ってもらえる基盤を 整備するという、このプロジェクトの目的にも 合致していると判断しました。さらに、実デー タを内 部に蓄えることなくデータのプレ ビュー機能が使え、適切なメタデータ管理が できることを高く評価しました。情報管理に 厳格な体制を敷く当社では、この点はとくに 重要でした」(泉氏)。なお、インフォマティカ の3製品とAzureのサービスを連携させたシ ステム構築は、インフォマティカのプラチナ パートナーであり、マイクロソフトのGoldコン ピテンシーパートナーでもあるSCSKが担っ ています。ERP導入支援のプロフェッショナ ルであり、クラウド製品、インフォマティカ製 品の知見も併せ持つ専門技術者集団が、周 辺システムやインフラまでワンストップでサ ポートする強固な体制が評価されました。

[導入効果]

データ利活用の準備工数を90%削減し、 データ管理のコストは約50%削減できると見込む

三菱重工グループ全体を網羅する新たなデータ統合・分析基盤は、2021年9月に本番環境の構築が完了し、翌10月より段階的に運用を開始しています。多様なデータソースを連携・統合してデータレイクへ蓄積するプロセスと、加工・変換を施してDWHへ流し込む工程、データを活用する一歩手前の準備工程までを網羅的にカバーできるソリューションが、インフォマティカの製品群によって実現しています。

野本氏は「収集・加工・集計といった付加価値を生まないデータ利活用の準備工程を、従来の10分の1程度に短縮できる」と試算しています。「EDPを用いて、ユーザーが加工・変換したいデータの条件をロジックとして組み立てたものは、DEIに還元して他のメンバーと共有できる機能についても、社内向けの紹介資料を作成して、積極的なアナウンスを始めたのですよ」(野本氏)。

また、グループ内に複数存在していたデータ基盤を統合したことで、管理運営にかかっていた総コストは約50%削減できると見込んでいます。泉氏は、「全ての基幹システムで取り扱うデータはもちろん、今後はIoTのセンサー情報など非構造データも利活用できる基盤へと発展させ、全社レベルで適切な統制をかけていく考えです」と述べます。

同社はこの構想に沿って、データの品質と鮮度の向上が図れるツールの追加導入と、DWHやデータレイクに機微情報を保管する際に適用すべきルールの策定に着手しています。また、SCSKはインフォマティカ製品を用いたデータ統合マネジメント基盤の高度化と、データビジネスの活性化につながる支援を継続していく考えです。「データドリブン経営に不可欠なこの基盤によって、きわめて迅速な意思決定が可能になりました。その結果、当社の市場競争力と収益力の向上につながっていくはずです」と、野本氏は力強く語ります。【取材実施日:2022年3月】