期待効果
新規サービスの開発効率向上や、メンテナンスコストの抑制効果
データ収集と連携、利活用が容易に実行できる環境を整えたことで、JAFが取り組むDX(デジタルトランスフォーメーション)推進策に沿ったビジネスモデルの変革を後押し
2,000万人以上の会員数を誇る日本自動車連盟(JAF)は 、会 員 ニ ー ズ を 先 取 りし たサービスを提供する事業モデルへの転換を図るために、インフォマティカの製品群を用いたデータ連携基盤を構築。サブスクリプション型やOne to One型サービスの具現化などに、このデータ基盤を活用して活用していく考えです。
[課題背景]
基幹システムとフロントシステムはサイロ化し、密結合の状態だった
日本自動車連盟(JAF)は、自動車や二輪車に 関するトラブルに対応するロードサービスをは じめ、自動車ユーザーに対して幅広い便益を 提供している一般社団法人です。2021年現在 の会員数は、2,000万人以上になっています。「車両の事故や故障など、起こったことに対し てケアをする『点』のサービスから、今後は会 員様のニーズを正しく把握して次のアクション を予測し、DXによって真に喜ばれる『面』的な サービスを先回りして提供できるよう、JAFの 事業モデルを変革していく必要があります」。 DX推進本部 データHUBプロジェクトチーム マネージャー 井川竜也氏は、事業戦略上の課 題をこう捉えてい
ます。 会員のマスターデータは従来、基幹システム によって管理されていました。一方、会員入会 手続きや、会員専用の優待サービス・イベント 申請を管理するWebサイトなど10数種類の事 業系サービスは、各部門が個別に構築したフ ロントシステムで運用していました。個々のシステムはサイロ化しており、システム間の連 携は複雑な密結合の状態でした。これらの課 題により個々の会員の行動履歴・サービス利 用履歴などを速やかに取得して、自在に分析 できる仕組みづくりが停滞していたのです。 「たとえば、会員様向けログインシステムと基 幹システムを繋いでシングルサインオン認証 のしくみを追加開発した際には、フロントシス テムごとの方式の違いをクリアするために、多大な時間とコストを費やしています。開発完 了後もパフォーマンスがなかなか上がらず、苦労が続きました」。同本部の大畑博志氏は、当 時の状況をこのように振り返ります。
[戦略・施策]
ハブ基盤を中心に据えた、新たなデータ連携基盤・分析基盤の構築を計画
JAFでは2019年、会員満足度の向上に直結する「面」的なサービスを先回りして提供するために、新たにデータ連携基盤とデータ分析基盤の構築を計画しました。まず、サイロ化していた基幹システムを10数年ぶりに全面刷新することを決定。これと並行して、密結合状態にあった各フロントシステム群の再整理にも着手しました。「フロントシステムと新たな基幹システムを直に連携させるのはリスクを伴うので、ハブ基盤を中心に据えたハブ&スポーク型への
変革を構想しました。各フロントシステムに点在していた会員様の行動データと、基幹システムで管理するマスターデータを一元化して相互の整合性・信頼性を高め、新たに構築するデータ分析基盤とも連携させる仕組みです。データ収集と連携、そして利活用が容易に実行できる環境を整えることで、DWHの分析結果に基づいた新サービスの開発が促進できると見込んでいます」。井川氏はデータ連携基盤を構築する目的を、このように説明します。
[製品選定のポイント]
初期費用を抑えながら、短期での構築が可能な点を評価
個別システム同士の関係を疎結合化(*1)し、リアルタイムでのデータ連携を実現する 統合ハブとして、JAFは「Informatica Data Integration Hub(DIH)」を選定していま す。大畑氏は「豊富な納入実績があり、我々も使いこなせる製品だという安心感がありま したね」と、選定理由を語ります。「初期費用 を抑えながら、構築期間を短縮できる製品。 小さく産んで大きく育てるという、私たちの 考え方とも合致していました」と、井川氏は 補足します。また、DIHの採用と同じタイミン グで、JAFではデータの整合性と信頼性・管理性を強化するために、「Informatica Data Quality」を導入しています。これらの2製品は、クラウド環境でのシステム構成に対応できることも、選定理由のひとつでした。
[導入効果]
開発効率の向上と、コスト抑制効果を見込む。サブスク型のサービス形態も構想
JAFの新しいデータ連携および分析基盤は、2021年7月より稼働が始まっています。個別システム間の疎結合化と、データの管理性・整合性が確保されたことで、DX推進本部では2023年4月に予定している新基幹システムの刷新後に、新規サービスの開発効率向上やメンテナンスコストの抑制効果を見込んでいます。分析テーマごとに必要なデータの所在を調査する煩雑な業務も、今後は不要になります。2023年にリリースするこの次期計画は、DXによる事業モデル変革のヤマ場であり、業務の要であるロードサービスのシステムと新基幹システム、クラウドベースの営業支援システムを連携させたプラットフォームとなります。
「このモデル変革を達成するために、IICS CDI(*2)の導入を決定しています」と、大畑氏は話します。各種クラウドアプリケーションの側からIICS CDIとDIHを介して、新基幹システムのデータへ容易にアクセスできるデータ連携基盤を短期で構築できるソリューションの核として、本製品はDX推進本部から高く評価されています。「私たちがStep3と名付けている次期計画では、フロントとハブ間のリアルタイムなAPI連携を実現しつつ、JAFが蓄積してきたデータ資産を予測分析などに活用するデータマートを視野に入れています。経験や勘ではなくデータに基づいて、会員様がまだ気づかれていない悩みや課題に対しタイムリーなアプローチができるサービスを予定しています。ロードサービスについても、特定の季節や曜日、大規模イベントの際に発生しやすいトラブルと場所を予測し、あらかじめ待機の体制を整えることが可能になります」と、井川氏は明かします。
国民のおよそ6人に1人、2,000万人もの顧客情報を保有する企業・団体は、ごく限られます。「この充実した会員基盤と蓄積データを活用すれば、よりワクワク感のあるカーライフのサービスを、サブスクリプションで提供できると考えています。そしてその先には、One to One型のサービス形態を構想しています。たとえばデータカタログなどの機能を付加することによって、より詳細な分析が可能になり、会員様の思いや潜在的な要求に対応しながら、共に成長できるようなシナリオを描いていきたいですね」と、井川氏は展望します。充実したデータ資産を駆使した、より安全なクルマ社会の形成に向けた提言など、社会課題の解決という面からも、JAFは行政や地域社会からいっそう期待されています。